昨今、電通の新入社員の過労による自殺や、法外な長時間労働、残業代不払い等による企業の摘発、また、男性の長時間労働により思うように育児に関わることができない状況など、長時間労働に関する社会問題が多く取りざたされています。
このようなニュースを見て、ご自身の働き方について見直したり、または、労働基準法っていったいどんな内容なのだろうと疑問に思われたりした方も多いかもしれません。現在、その労働基準法は改正に向けて動いています。今回は、その改正について、少し触れてみたいと思います。
戦後昭和22年にできた「労働基準法」その改正とは
現在、労働基準法が一部改正されようとしています。この法律は、昭和22年に制定されて以来、産業形態の変化やIT革命による働き方の大きな変化などに伴い、数々の改正がなされてきました。 昭和22年といえば戦後間もない頃で、6・3・3学制度がスタートし、東京都が22区から23区になり、学校給食に脱脂粉乳が出るようになったような年です。当時と同じ法律では不具合がでるのは当然ですね。
今回の労働基準法改正理由と具体的な改正は下記のとおりです(厚生労働省HPより抜粋)。
Ⅰ長時間労働抑制、年次有給休暇取得促進のため
(1) 中小企業における月60時間超の時間外労働に対する割増賃金の見直し
(2) 著しい長時間労働に対する助言指導を強化するための規定の新設
(3) 一定日数の年次有給休暇の確実な取得
(4)企業単位での労働時間等の設定改善に係る労使の取組促進
Ⅱ多様で柔軟な働き方の実現のため
(1) フレックスタイム制の見直し
(2) 企画業務型裁量労働制の見直し
(3) 特定高度専門業務・成果型労働制(高度プロフェッショナル制度)の創設
何だか、あまりピンとこないものもあるかもしれませんが、今回は、時間外労働に対する割増賃金の見直し、年次有給休暇、フレックスタイム制の見直しについて触れていきます。
●中小企業における月60時間超の時間外労働に対する割増賃金の見直し
平成22年に、月60時間を超える時間外労働に対し、割増賃金50%以上を支払うようにと改正されましたが(それより前は月40時間以上で一律25%)、その際、中小企業に対しては猶予措置がとられ、施行の対象から外れていました。今回の改正案が成立すると、その猶予措置が廃止され、中小企業も支払の義務が生じることになるということです。
そうなると、中小企業で60時間以上の残業が禁止となるケースが出てくる可能性が高くなり、残業代を見込んで働いていた方は、給料が少なくなる可能性もでてくることになります。
また、現在、割増賃金を払うにしても、慢性的に時間外労働の多い企業は、経営を圧迫することも考えられます。残業を減らす対策や業務効率化、それに伴いパフォーマンスで評価する人事制度見直しなども含め、使用者も労働者も、制度改革や意識改革を求められることになるのではないでしょうか。
●一定日数の年次有給休暇の確実な取得
これは、会社側が、10日以上の年次有給休暇を持っている従業員に対して、5日間は毎年、時季を指定して(会社が決めた日に)与えるというものです。
残業時間の長い人ほど、有給休暇の消化率も低いということが厚生労働省の調べでもわかっています。また、みんなが休みを取るなら安心してとれる、という日本人ならではの気質には合っている制度かもしれません。
有給休暇については、基本的にその使用目的を制限してはいけないということになっています。有給休暇を取っても(取らされても!?)、それが自宅での仕事に回ってしまわないようにしたいものですね。
●フレックスタイム制の見直し
これは、フレックスタイム制の「清算期間」の上限を1か月から3か月に延長するというものです。
もともとフレックスタイム制は、始業・終業時間を労働者が決定し、生活と仕事の調和を図りながら効率的に働くことができれば、労働時間の短縮が狙えるだろう、という意図のもと作られたものです。
この清算期間がのびることにより、業務が一月を通して多忙な月があったとしても、翌月の労働時間を減らせば法定労働時間内に収め、調整することができるようになるよ、というものです。確かにより柔軟に働き方が実現し、使用者側にも労働者側にも、メリットはありそうです。
もちろん、フレックスタイム制度は、自由に際限なく働けるものではなく、法定労働時間の総枠を超えれば、割増賃金は必要になりますので、労働者も使用者側もきちんとした管理が必要になります。早く帰宅できるからと言って、自宅で仕事をしなくてはならない状況は、この制度の本意とは外れてしまいます。使用者側も労働者側も、制度を正しく理解して、有効に利用したいものです。
個々人の意識と労基法のリテラシーが必要
いかがでしたでしょうか。
労働基準法は、時代の流れに伴い、数々の改正を重ねてきましたが、今後も法律の改正は続くと思います。ただ、法律の改正だけで本当に働きやすい社会になるでしょうか。
働きやすい社会を創り上げていくためには、国の法律や、会社の就業規則だけでは限界があります。私たち個々人の意識改革も必要なのではないでしょうか。
その為には、個人レベルでも労働に関する基本的な法律の知識を持っておくこと、自分がより快適に仕事ができるよう、必要な能力をつけていくこと、労働組合やユニオンなどに参加し、積極的に働く環境を守り変えていくこと、いかに効率よくパフォーマンスを上げていくかを、個々人が真剣に考えていくことなどが必要なのではないかと思います。