エスキャリアの有料キャリアカウンセリング「マイ・カウンセラー」に寄せられるご相談の中でも多いのが、ご夫婦間や職場でのコミュニケーションです。
「言いたいことが言えず、ストレスが溜まってしまう」「話し合うと、いつも気まずい雰囲気になってしまう」など、より良い関係を築きたいからこそ、相手とのコミュニケーションに悩みを抱えしまう方が多いようです。
今回は『アサーション』と呼ばれる、コミュニケーションスキルの一つをご紹介します。
アサーションとは、自分も相手も大切にした自己表現です。
実際のカウンセリングの場でもアサーションをレクチャーすることは多く、ご相談者が実践してみると状況が一気に好転することもあります。
人間関係のコミュニケーションで悩むのは、相手との関係を良くしたいという表れです。その相手を思う気持ちがあれば、アサーションのスキルは身につきます。
ぜひアサーションを学んで、あなたにとっても、相手にとっても、心地良い人間関係を築きましょう!
アサーションとは?
人を大切に出来るとあなたも嬉しくなったり、自分を大切にしてもらえると嬉しくなったり、自分を大切に出来ると幸せな気分になったりしませんか?
「うん、うん!」と大きく頷かれた方は、今回お話する『アサーション』がとても興味深いものになるかと思います。それ以外の方も、こちらのコラムをお読みいただき、少しでも『アサーション』について興味をもってもらえたら嬉しく思います。
『アサーション』とは、先ほども書いた通り、自分も相手も大切にした自己表現のことを言います。
・伝えたいことを相手にきちんと伝えられる
・自分の心に正直になれる
・相手のことを大切に思える
・お互いを尊重し合える
そんな自分になり、そんな人間関係が築けたとしたら、笑顔溢れる“豊かな人生”が送れるような気がしませんか?
では、アサーションとはどういうものなのか、もう少し具体的にお伝えしていきましょう。まずは例文をご覧ください。
時短勤務は、自分も周りも気を遣う?
あなたは今、産休・育休を経て、1年半ぶりに時短勤務で社会復帰をしました。16時には退社し、急いで保育園にお子さんをお迎えに行きます。
ところが、15時50分に上司から新しい仕事をお願いされました。どう頑張っても30分はかかりそうな業務量です。
あなたなら、どう対応しますか?
<case1>
「16時に帰らないといけないんだけどな。。でも時短勤務で周りに迷惑をかけてしまっているし、頑張れば30分で終わりそう。急いで片付けて保育園に向かおう。…結局、お迎えが20分遅れてしまった。。上司は私が時短勤務だってわかっているはずなのに、終業時間ギリギリに仕事を頼むだなんて、嫌がらせかしら。」と、悶々としながらも上司には何も言わずに仕事を引き受ける(そして嫌な気持ちになる)。
<case2>
「16時には退社するってご存知ですよね?それなのに、この時間に仕事を依頼するってどういうことですか?その仕事は受けられません!」と上司に伝え、16時には退社し、保育園のお迎えにも間に合った(本人は何も気にしていないが、上司は嫌な気持ちになる)。
極端な例ですが、どちらもモヤモヤが残る対応ですね。
コミュニケーションのうち、<case1>のように常に他者を優先し、自分のことを後回しにするやり方を「非主張的(ノン・アサーティブ)」と呼び、<case2>のように自分のことだけ考えて、他者を踏みにじるやり方を「攻撃的(アグレッシブ)」と呼びます。
上記の例で言うと、非主張的なコミュニケーションは上司からは良い人だと思われますが、実際は悶々としていることが多く、この状況が続くとあなたは上司を苦手だと感じるようになるかもしれません。
攻撃的なコミュニケーションは自分の主張を通しているので何も問題がないように思えますが、上司はあまりいい気がしません。時間をきちんと確認していなかっただけかもしれないのに、きっぱりと仕事を断られてしまったので、今後あなたに仕事をお願いしにくくなるかもしれません。
このように「非主張的」「攻撃的」という、どちらかが嫌な思いをするコミュニケーションとは別に、自分も相手も大切にしたコミュニケーションがあります。それが『アサーティブ』です。
アサーティブな対応と、もたらす効果
先ほどの例で、アサーティブな対応を考えてみましょう。
「部長、今お願いされた仕事ですが、30分はかかる業務量です。早く終わるように努力しますが、子どものお迎えがあるので16時には上がりたいです。いつまでに仕上げれば良いか教えていただけますか?」
この場合、あなたは「早く終わるように努力する」が「16時には退社したい」と、自分の思いや状況をきちんと伝えています。その上で、上司の要求も聞いているため、上司は「時間を確認せず、お願いしてすまないね。明日の午前中までに仕上がっていれば良いよ。」や「今日中に欲しいものなんだ。退社ギリギリの時間にすまないね。他の人にお願いしてみるよ。」など、自分の要求を伝えることが出来ます。
アサーティブなコミュニケーションの特徴は、自分も相手もお互いに『大切にされている』と感じられるため、とても良好な関係を築くことが出来ます。
このように『アサーション』を実践すると、職場関係だけでなく、家族関係も変化していきます。
次の例を見てみましょう。
子どものお世話を、パートナーにお願いするのは難しい?
あなたは、生後7ヶ月になるお子さんがいます。
とある休日、晩ご飯の支度をしているとお昼寝から覚めたお子さんが大泣きしています。すぐに抱っこしてあげたいけど、揚げ物をしていたため、手が離せません。パートナーはソファでうたた寝しています。
あなたなら、どう対応しますか?
先ほどと同じように、非主張的・攻撃的・アサーティブのタイプ別に考えてみましょう。
・非主張的/抱っこして欲しいなぁと思いながらもパートナーには何も言わず、手を止め、お子さんを抱っこする(心の中では「何でいつも私ばっかり…」とモヤモヤしている)
・攻撃的/「寝てる暇があるなら、○ちゃん抱っこしてよ!」と、パートナーの状況を無視して命令する(パートナーは体調がすぐれなかったのかもしれないし、少し休んでいただけかもしれないのに、一方的に命令され、嫌な気持ちになる)
・アサーティブ/「お疲れのところ悪いのだけど、いま手が離せないから、○ちゃんを抱っこしてもらえると嬉しいな」と、パートナーの状況を大切にしながらも、自分の要求をきちんと伝える(パートナーは自分を大切にしてもらえたと感じ、「ごめん、ちょっと寝てたわ。抱っこするね」と、抱っこしてくれる…はず)
このように、アサーションには歩み寄りの精神があるため、お互いを大切にし合ったという気持ちが残り、相互尊重の体験をすることが出来ます。特に<家族>は長い人生を共に歩むパートナーです。お互いの意見を出し合い、譲ったり譲られたりしながら、双方にとって納得のいく結論を出そうとするプロセスこそが、家族を築いているとも言えます。
『うまくいったり、いかなかったり』が大切
いかがでしたでしょうか?『アサーション』について興味をもっていただけましたか?自然とアサーティブな対応が出来ている方もいらっしゃるかもしれませんね。
筆者自身、心理学を勉強していたこともあり、当時は「アサーションって大事だな。実践したい!」と思っていましたが、実際は思うようにはなかなか出来ません。
<自分も相手も大切にする>
一見簡単なようですが、これが難しいのです。
アサーティブになるには、練習を重ねる必要があります。またテクニック論を伝えて習得する、というものでもありません。まず自分の心の声に気づくこと、そして相手を思う気持ちから始まります。お互いを大切にし合うからこそ、うまくいったりいかなかったりしますが、その過程も人間関係の構築には大切だと感じます。
筆者には2歳5ヶ月になる男の子がいますが、現在、イヤイヤ期真っ只中。なんでも「嫌だ」と言われるので、試しにアサーティブな対応をしてみました。
「おもちゃ片付けて、ご飯食べようか?」
「嫌だ」
「そっか〜、もっと遊びたいんだね。じゃあ、もう少し遊んだらご飯食べようか?」
「うん」
そして、意外とすぐ遊ぶのにも飽きて、すんなりご飯を食べてくれました(!)。
他にも、こんなことがありました。
外に出ると息子は握る手を振りほどいて走り出してしまうのですが、「嬉しくて走りたく気持ちもわかるけど、ママ、○くんとお手手繋げると嬉しいな!」と伝えたところ、ギュッと手を繋いでくれるようになりました。
もちろん息子は本能のまま行動しただけですし、たまたまだとは思いますが、私にとっては大きな発見でした。息子の気持ちを大切にしてよかった、自分の言いたいことも言えてよかった、そう思えました。子育てにもアサーションは大事なのだと気づきました。
自分を大切にしてもらえると、嬉しい気持ちになる。
人を大切に出来ると、自分も嬉しい気持ちになる。
自分を大切に出来る人は、人も大切に出来る。
アサーションは、そんなあたたかい気持ちから成り立っています。
あなたも生活の中に『アサーション』を取り入れてみませんか?
※参考図書/アサーショントレーニング−さわやかな<自己表現>のために− 平木典子 著