産後の体は、交通事故で全治三か月の負傷をしたのと同じだけのダメージを受けていると言われています。それくらい、出産は体に負担のかかる大変な大仕事なんです。
しかし、核家族化が進む現代は、パートナーが仕事で忙しいなどの理由で、産後の家事育児の担い手が家庭内にいない場合もあります。そのため、出産後に十分な休息を取る暇もなく、普段の生活に戻らざるを得ない女性が多くいるのも現実です。
産後に無理をすると、特に更年期以降に影響が出てしまいます。育休中に、しっかりと体のケアを行いたいものですよね。
産後、不調を感じやすいのはなぜ?
産後に不調を感じやすいのは、妊娠から出産にかけて体が大きく変化したことや、出産後の環境などが原因となっています。具体的には、主に下記4つの原因が考えられます。
■ホルモンバランスが乱れるから
妊娠から出産にかけて、女性のホルモンバランスは大きく変化しています。
妊娠のために重要な働きを担うのが、女性ホルモンと呼ばれる「エストロゲン」と「プロゲステロン」です。ともに子宮を妊娠しやすい状態に整え、妊娠を継続させる役割を担っています。
女性ホルモンは、妊娠中は大量に胎盤で生成されていますが、出産時に胎盤が排出されるとともに激減。代わりに母乳を出すために重要な役割を担う「プロラクチン」と「オキシトシン」が大量に分泌され始めます。
このようなホルモンの急激な増減により、ホルモンバランスが乱れ、さまざまな体の不調の要因となるのです。
■出産にかけて骨盤や筋肉がダメージを受けるから
赤ちゃんを包み込む子宮は、妊娠から出産にかけて大きく膨らみ、重さは非妊娠時の約20倍にもなります。長さも約7センチだったのが、臨月になる頃には約30センチに、幅も約2センチだったところが、約25センチにもなります。
徐々に大きくなっていく赤ちゃんの居場所を作るために、レキシトシンというホルモンが分泌され、骨盤関節部の靭帯がゆるみます。その結果、骨盤が大きく開き、赤ちゃんのための空間が確保されるのです。
出産時の赤ちゃんの頭囲は直径10センチ以上あります。しかし、ママの子宮口が開くのは、最大でも10センチ。そのために赤ちゃんは、4枚に分かれている頭蓋骨を重なり合わせ、頭を細長く変形させた状態で産道を通ってきます。自分の頭より狭い場所を通ってくるわけですから、産道にも相当な圧力がかかるのです。
こうした骨盤の緩みや下半身の筋肉のダメージも、体の不調を引き起こす原因となります。
■赤ちゃんのお世話時は、姿勢が悪くなり、筋肉を酷使しがちだから
小さい赤ちゃんのお世話をしているときは、どうしても姿勢が前かがみになってしまいます。また、赤ちゃんを抱っこするときは、ただでさえ普段あまり使わない腰の筋肉や関節を酷使することに。それに加え、抱っこするときの姿勢が悪いと、体にも余計な負担がかかってしまいます。
こうした姿勢の悪さや、筋肉・関節の酷使は、体を凝り固まらせ、腰痛などの原因になるのです。
■育児で睡眠不足が続き、ストレスを感じやすくなるから
産後は夜間授乳などにより、睡眠不足が続いたり、慣れない育児により、ストレスを感じることが多くなったりします。睡眠不足やストレス過多が続くと、体を回復させる役割を担う副交感神経の働きが弱まり、交感神経の働きが強まります。
こうした自律神経の乱れも、体の不調を招く原因です。
産後に起きやすい体の不調と要因
では、産後は具体的にどのような不調を感じやすいのでしょうか?また、その原因は何なのでしょうか?
■疲れやすさ、だるさ
出産後は、常に体がだるく、ちょっとしたことでも疲れやすくなるものです。その主な要因は、自律神経が乱れるから。産後の睡眠不足やストレス過多により、体の回復を担う副交感神経が働きにくくなることで、なかなか疲れが取れないのです。
■髪の毛の脱毛
妊娠中に急増する女性ホルモンの「エストロゲン」は「髪の毛の成長を促進し、髪の毛が生えている期間を延ばす」役割も担っています。しかし、エストロゲンは出産後に激減。そのため、髪の毛も脱毛しやすくなってしまうのです。
■腰痛、肩こり、頭痛
育児中の姿勢の悪さにより、骨盤が歪んでしまったり、筋肉が酷使されたりすることで、腰痛や肩こりが引き起こされます。自律神経が乱れ、体の回復が追いつかないのも、これらの症状の要因です。
また、産後は「エストロゲン」が激減しますが、それとともに脳内物質であるセロトニンも減少します。その際に脳の血管が広がることで、頭痛が引き起こされると言われています。
■むくみ
妊娠中は赤ちゃんに栄養を運ぶため、血液量が非妊娠時の3~4倍にもなります。血液の主な成分は水分ですが、女性ホルモンには水分を溜め込む作用があり、産後に女性ホルモンが激減することで、体内の水分量も減少してしまいます。さらに、授乳によって水分が奪われることで、体の防御機能が働き、過度に水分を溜め込もうとしてしまうのです。それが、むくみの原因です。
■痔、便秘
妊娠中に大きくなった子宮により、肛門を閉じる部分が圧迫され、うっ血し、痔になってしまうことがあります。痔を患ってしまうと、力むことができにくいため、便秘の原因に。また、産後は体の水分が不足することで、新陳代謝が悪くなり、便秘になりやすくなるのです。
■尿漏れ
子宮や膀胱などを支えている骨盤底筋は、妊娠中に大きくなった子宮を支えるために、最大限にゆるみ切った状態となります。また、育児中の姿勢の悪さは骨盤の歪みの原因となり、骨盤が元の状態に回復するのを妨げます。
骨盤底筋や骨盤がゆるんだままだと、膀胱も下がった状態のままになるため、尿漏れが起こりやすくなるのです。
骨盤底筋や骨盤がゆるんだままだと、膀胱も下がった状態のままになるため、尿漏れが起こりやすくなるのです。
体をケアするために育休中にできることは?
前章で上げた体の不調をケアするために、育休中にどんなことができるのでしょうか?
■疲れやすさ、だるさのケア
これらの症状は自律神経の乱れが原因であるため、自律神経を整えるケアが必要です。自律神経の乱れはストレスや睡眠不足が原因であることから、人に話を聞いてもらったり、好きなものを食べたり、なるべく睡眠を取るようにしたりと、少しでもリラックスできるように心がけることが大切です。
●参考記事「育休中にやっておきたい心と体のケア ~心編~」
■髪の毛の脱毛のケア
脱毛は、6ヶ月~1年で自然に落ち着くとされていますが、気になるようであれば食事に気をつけてみましょう。髪の毛の成分となるタンパク質や、タンパク質の吸収と働きを高めるビタミン、髪の毛を育てるミネラルを摂るように心がけるといいでしょう。
■腰痛、肩こり、頭痛のケア
これらの症状は、骨盤の歪みが原因であるため、骨盤のケアをきちんと行うのがポイントです。ただ、骨盤をケアするためには適切な時期があるので注意が必要です。
産後2ヶ月頃までは、まだ体の内部が回復しておらず、骨盤も不安定な状態です。この時期に間違った運動をしてしまうと、逆に骨盤を歪める原因となってしまいます。そのため、産後2ヶ月までは骨盤ベルト等で引き締めるケアを中心に、産褥体操を行う程度にとどめておきましょう。
それ以降になると、ヨガやストレッチ、エクササイズなどを始めることができます。赤ちゃんが動き回れるようになると、落ち着いて運動をすることが難しくなるため、それまでに始めるのがおすすめです。近所に産後ケアのプログラムを行っている教室があるか、調べてみるといいかもしれません。ママ友作りのきっかけにもなります。
痛みなどがひどいときは、整骨院などに行き、プロの力を借りることもしてみてください。
■むくみのケア
むくみを解消するためには、体の血行をよくすることが大切です。そのため、マッサージやストレッチを行うと良いでしょう。また、塩分の多い食事を取ると、体が水分を溜め込もうとしてしまうため、減塩を心がけるのが大切です。水分を取らないのは逆効果であるため、こまめに水分補給をするのもポイントです。
■痔、便秘のケア
痔を患ってしまったら、患部を清潔にするように心がけましょう。また、便秘を緩和するためには、新陳代謝を高めることが大切です。そのためには、水分や老廃物の排出を促す食物繊維を積極的に取りましょう。
■尿漏れのケア
尿漏れは、骨盤や骨盤底筋がゆるみ、膀胱が下がってしまうことが原因です。そのため、骨盤体操やヨガにより、骨盤のゆがみを整えたり、骨盤底筋を締めるストレッチを行ったりすると良いでしょう。
骨盤が元に戻らないうちに、ウエストを締めつける下着などをつけてしまうと、さらに膀胱が下がってしまう原因になってしまいます。産後のお腹のたるみは確かに気になりますが、まずは骨盤のケアを優先するようにしましょう。
赤ちゃんのお世話に一生懸命になっていると、つい自分の体のことは後回しにしがちです。でも、悪化してからでは治すのが大変! 育休中のうちに、早めにケアをしておくのがおすすめです。