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3児の父、初めてのワンオペ育児 in 海外


駐在員の夫を持ち、現在アメリカで暮らすワーキングママである筆者。
今年の夏、日本での仕事のために、4歳、6歳、8歳の子どもたちとパートナーを残し、一人で帰国することになりました。

親となってのキャリアは同じく8年。
しかし、子育てのほとんどの期間をワーキングママとして、時にワンオペ育児、時に不眠不休で奮闘してきた筆者と、それを「手伝っていた」パートナー。8年もの歳月の間に家事育児の分担に大きな偏りが生まれ、それが夫婦間の不協和音となったことも多々ありました。

今回のコラムでは、筆者の日本への帰国時に、初めて「ワンオペ育児in海外」を体験したパートナーへのインタビューを元に、夫婦それぞれが考えたことをまとめていきたいと思います。

夫の気づき1:前日の夜と翌日の朝がつながっている

今までの私は、仕事を終えて帰宅したら一つの区切りがあり、そこで息抜きをしてから翌朝また新しいスタートを切るという意識がありました。ところが、実際にワンオペで家事と育児をやってみると、その「区切り」がないことが分かりました。

前日の夜に仕事を終えてから、翌日の朝までの間に、細かい家事育児のタスクが詰まっていて、それを片付けなければ平穏な朝を迎えられない。緊張が続く感じがとても辛かったです。

例えば、子どものお弁当箱を洗う事。今までは妻に頼まれても、「やるやる」と言って忘れたりしていました。それで翌朝に妻から文句を言われても、今までは「弁当箱くらい、今これから洗えばいいじゃん」と思っていたのです。

ただ、実際にやってみたら、本当は洗ってあるだけではダメでした。翌朝に弁当箱が乾いた状態で、子どもたちの分三つがセットでそろっていて、朝にすぐ食べ物が詰められる状態になってないといけない。その状態にしておかないと、朝の忙しい時間に5分時間が余計にかかりました。それに加えて、フライパンを洗うのに3分、鍋を洗うのに1分…というのが積み重なって遅刻しそうになった時、初めて前日の夜に洗い物をサボって寝た自分に腹が立ちました。

今更ですが、やっと妻の怒りが理解できたようにも思います。頼まれた事をしなかった私に妻は「これをあなたがやらなかったら、その残りを誰がやっていると思っているの?」とよく言っていました。しかし私は「いや、それは君がやってくれているのは分かるけど、それって怒るほどのこと?」と思っていたのです。

前日の夜と翌日の朝は一つに繋がっていて、夜にやり残したことは、翌日の朝、必ず「誰か」にしわ寄せが行く。今まで、その「誰か」が妻だったわけです。今まで私がサボったせいで妻が時間に追われ、遅刻するかもしれない、会議に遅れるかもしれないという精神的負担を抱えていたわけです。

初めて彼女に対して「そりゃ怒るよね、ゴメン」と思いました。家事育児のタスクを一連の流れとして理解するという事が足りていませんでした。

妻(筆者)の気づき1:夫に説明するのは面倒くさかった

今までの自分を振り返ってみて、パートナーへの説明が足りていなかったことに気づかされました。

例えば、忙しくて「夕食の食器洗い」をお願いしたとしたら、私の中では「キッチンを明日の朝私がさっとご飯が作れる状態にしてほしい」という欲求でした。それを説明していなかったのにもかかわらず、朝起きてキッチンの洗い残しを発見しては、嫌な気持ちになっていました。

今回、その「嫌な気持ち」がどうして出てくるのかを考えてみたのですが、大きく分けて二つでした。

一つ目は、「なぜ頼んだことを最後までやってくれないの?」という、パートナーに約束を裏切られたような気持ち。
二つ目は、「最後までやってくれないことで、私にどんな迷惑がかかるか分かっていない」という怒りです。しかし、特にこの二つ目については、「今、何を、どのようにしてほしいか」「やらないことで誰にどういう悪影響が出るのか」を一連の流れで説明していませんでした。

説明していなかった理由はシンプルで、説明することが面倒くさかったから、というのが正直なところです。同時に親になった大人に対して、なぜ私が手取り足取り説明しなければいけないのか、というやり切れない思いが先にあって、説明することに負担を感じていました。
もっと言うと、私が経験したのと同じようにパートナーに苦しんでほしかった。辛い思いをしてでも自分で主体的に学ぶべきだと思っていたのです。

しかし、そんな底意地の悪いことを思いながら一緒に暮らすのは精神衛生上良くないとも思いました。よく女性誌に「夫は褒めて伸ばす」などと書いてあるので、少なからず実践してきたつもりでしたが、「褒める」ということよりも、まずは物事の因果関係や流れを理解してもらうことが必要だったと気づきました。

この家事育児タスクをやらなければいけない理由、「後で」ではなく「今」やらなければいけない理由をしっかり伝えておけばよかったと思っています。

夫の気づき2:子育ての中で男性がアウェーにいる日本

妻がいない間に、次女の友人の誕生会に参加しました。
誕生会の最中、親同士は遊んでいる子どもたちを横目によく雑談をします。妻がいない期間で、実はそれが一番苦痛でした。

アメリカでは、男性も女性も入り混じって子育て関連の雑談をします。利害関係と議題が決まっているビジネス上の会話と違って、先生の評判、習い事の話、隣のクラスのトラブル…と話題が次々変わる子育て関連の雑談では、何を話せばいいか分からない。そもそも子どもの友人の名前すら分かりませんでした。

思えば、今まで日本でもそういった「子どもの友人の親とコミュニケーションをとる」という事をしたことがほぼなかったことに気づきました。日本にいた頃、子どもたちの学校行事に行っても、親同士のコミュニケーションの中心にいるのはママたちで、そこにパパが混ざることはほとんどない。パパたちは、会場の後ろや隅の方で立って見ている、常にアウェー、傍観者という事が多かったように思います。日本式のアウェー状態しか経験していなかった状態から急に、アメリカ式の夫婦同等の環境に入っていったので大変でした。

今までなんとなく、親同士の付き合いは「女の世界」と思っていましたし、ママたちと何を話したらいいか分からないからと避けていたことが、結果として子どものことを母親に任せきりにすることに繋がっていたのだと感じました。父親も時には勇気を出して「子育て関連の雑談」に飛び込んでみるというのはいいことだと思います。

妻(筆者)の気づき2:「女性ならではのマルチタスク能力」を一旦否定してみる

アメリカに帰ってきたら、夫が1週間のメニュー表を見せてくれました。どうやら初日に子どもたちと、いつ何を食べるか決め、ひたすらその通りに実行したそうです。夫から、「絶対に1週間分のメニューを決めた方が良い」と言われ、料理好きな自分としては困惑してしまいました。

ただ、考えてみれば家事育児というのは、料理をはじめとした「個別に見たら簡単なタスク」の膨大な集積を常に頭のどこかに入れておき、忘れずに実践するということです。さらに、仕事もしていれば、それにも頭を使わなければいけません。自分の脳は一つしかないのに、あれこれ考えることが多ければ当然仕事のクオリティも落ちます。実際に、それが自分を苦しめる原因にもなっていました。

「女性はマルチタスク能力が高い!」「子育てで培ったマルチタスク能力を仕事に活かして…」と言われることが多いので、今までは「マルチタスクでやるのが当たり前、マルチタスク能力を活かすべき」と思っていたのですが、それ以前に、そもそもタスクをなるべく減らして頭を使う回数を意図的に減らしていくというのは必要かもしれない、と思いました。

献立を一定期間分決めてしまうことの他にも、例えば外部業者に清掃を委託する、仕事用の服を固定するなど、積極的に頭を使う回数を減らしていけるところは多数あるように思います。それがもしかしたら、仕事のクオリティにも繋がってくるのではないでしょうか。

さいごに~夫の目線

たった1週間ですが、ワンオペ育児は本当に大変でした。今回は、自分が夏休み中だったからできただけだと思います。

しかし、一方で、子どもたちとめいっぱい触れ合う楽しさが分かり、より愛しく感じるようになったという部分もあります。作ってあげたお弁当を大事に持つ姿、学校から帰ってきた直後の楽しそうな顔、今日あったことを話すキラキラした目…など、普段見る機会がない姿が見られて良かったと思います。

結局のところ、家事育児を行うインセンティブは「子どもからの愛情」だと思うのです。子育ては手数。どれだけ心の中で愛情を持っていたとしても、手数を出さなければ子どもたちには伝わらない。どれほど自分が関わったかで子どもから受ける愛情も違う、と感じました。

 

また、今、他の父親の方々に伝えたいことがあるとすれば、育児休暇を取ることをぜひお勧めしたい、ということです。子どもが生まれた時だけではなく、むしろ、保育園に行き始めたとか、小学校に行き始めたとか、そういう子育てのフェーズが変わるごとに1週間程度やってみるというのが良いと思います。

今まで私は、育児休暇というと長期間取得取しなければ意味がないと思っていました。しかし、育児において何が起きるのか、何に気を付けないといけないのかを学ぶためであれば、期間ではなく、むしろ「全部一人でやってみる」ということの方が重要なのだと思います。一人で試行錯誤しながら体験した方が、想像でパートナーの大変さを思いやるよりも何倍も理解できます。

今回の体験は、自分の今までの行動を振り返り、父親として夫としてどうあるべきかを冷静に考えられる時間となりました。

さいごに~筆者の視点

今回、夫のワンオペ育児を通じて、自分がパートナーのクリエイティビティを奪っていたことを痛感しました。夫が創意工夫して家事育児を行う場を私が全て仕切ってしまっていて、自分のやり方が家族全体にとって最適かどうかという視点を失っていたと思います。

また、思い返せば、「こうした方が良いんじゃない?」などと家事育児に関する意見を言われていても、「よく分かっていない人から言われた机上の空論」と批判的に受け止めて素直に聞き入れていなかったことに気づきました。

今回、パートナーがワンオペ育児をしたことで、夫婦間に「子育てのここが大変」「この家事を『今』行わないと後にどういう影響があるのか」などの一定の共通認識が生まれ、やっと建設的な家事育児に関する話し合いができたように思います。

また、今までは、家事育児と仕事をしていると、時に、まるで水の上を歩くような気持ちになっていました。右足が沈む前に左足を出し、左足が沈む前に右足を出すような、気を抜いたら水に沈んでしまう危機感と慌ただしさの中でどんどん月日だけが経っていく感覚です。

子どもを置いて出かけることは初めての経験でしたが、一度日常の慌ただしさから抜け出して、母として、パートナーとしてどうありたいか、自分がどういう働き方をしたいのかを一人でじっくり考えられたことも良かったと思いました。

関連コラム:男性が育休を取るってどうなの?パパのリアルインタビュー①


この記事を書いた人

山口 奈生 さん
大学卒業後、大手損害保険会社の総合職として勤務。夫の海外留学に帯同するために、子ども二人とともに渡米。帰国後、キャリアカウンセラーの資格を取得し、第三子を出産。人材サービス会社で勤務ののち、キャリアカウンセラーとして独立。現在、再度家族で渡米し、アメリカ⇔日本のリモート勤務中の、一男二女の母。
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