「子どもを持ちたい」と考えている女性にとって、キャリアとどう両立するか、いつのタイミングで妊娠・出産をするかは、悩みの種になりやすいものです。一方で、子どもは授かりもの。妊娠を計画してすぐ授かるかどうかはわかりません。中には不妊治療を行う方もいらっしゃることでしょう。
今回は、不妊治療とキャリアを両立するために何をすればいいか?について、考えていきたいと思います。
1.不妊治療の現状
不妊の検査や治療を受けたことがある(または現在受けている)夫婦は2015年発表の厚生労働省の「出生動向調査」によれば、約5.5組に1組と言われ、現在では少子化傾向と逆に生殖医療により誕生する子どもの数は年々増加しており2018年に出生した約16人に1人は生殖医療により誕生した子どもとなっています。
不妊治療には、タイミング法、排卵誘発法、人工授精、体外受精、顕微授精など様々な手法があります。内容によっては保険が適応されるものもありますが、多くは適用外。病院側が自由に金額を決めることができるため、同じ治療内容だったとしても、費用はまちまちです。
2021年3月、厚生労働省が発表した医療機関を対象に行った不妊治療の実態調査結果では、1回当たりの治療平均額は人工授精3万円、体外受精50万円、男性不妊検査4万5,000円、顕微鏡を使って精子を取り出す手術は32万円でした。
2.仕事との両立が難しい理由
厚生労働省が行った調査によると、仕事と不妊治療の両立ができず16%の方が離職をしています。なぜ、不妊治療は仕事と両立するのが難しいのでしょうか?通院に時間を取られる、体調と仕事のスケジュール調整が難しい、という2点が大きく課題になるようです。
不妊治療は、排卵日や生理などの体の状態に合わせて行われます。そのため、平日と重なった場合は、仕事を遅刻・早退しなければなりません。また、ホルモンバランスを整えるために注射を打つ場合は、数日間連続での通院が必要になります。また、治療の副作用で体調を崩す場合もあり、そうなれば仕事を休まなくてはなりません。
デリケートな問題なので、上司や同僚に話しづらく、知らせないまま治療をしている方も多くいらっしゃいます。中には、不妊治療をきっかけにフルタイム正社員を辞めて、週3日勤務の派遣社員になるなど、勤務形態を変える方もいるようです。
3.両立のために、今できること
①‐周囲へ理解を求める
「不妊治療していることを職場に話しづらい」と感じる人が多く、打ち明けるかどうかは頭を悩ませる最大のポイントですよね。最終的にはご本人の意思次第ですが、周囲へ理解を求めることをお勧めします。
突発的な遅刻・早退・欠席の理由をわかってもらえるだけでも、随分気が楽になると思います。ストレスは不妊治療の敵でもありますから、できるだけリラックスした気持ちでいられる環境を整えてみてはいかがでしょうか。打ち明けても、心苦しい気持ちは変わらないかもしれませんが、カバーしてくれた上司や同僚に感謝の気持ちを示し、できる時にきちんと務めを果たせば、周囲の方々も理解を示してくれるのではないかと思います。
②‐働き方を変える
あまりに忙しい部署ならば、比較的融通が利きやすい部署へ異動希望を出したり、外回りなど体への負担がかかりやすい職種から、負担がかかりにくい内勤に変えてもらったり、といった措置が取れないか、上司に相談してみてはいかがでしょうか。
また、勤務形態を変えるというのも一つの手段です。転職をしなくても、社内で正社員から契約社員などに切り替えてもらえる場合もあるかもしれません。今の職場が理解の得辛い雰囲気ならば、思い切って転職を考えるのもアリです。
「そんなことをしたら、キャリアに差し支える」と感じる方もいらっしゃるでしょう。「“キャリア”とは、より責任の重い・影響範囲の広い仕事へ移行していくことだ」と考えていらっしゃる場合は、そのように感じられるかもしれません。
ですが、本来“キャリア”という言葉は、仕事だけを指すものではありません。仕事以外にも、家庭人としての役割、余暇や趣味、学びや地域活動など、全てを含んだものを指します。ライフステージが変われば、各々の比重が変わり、心地良いと感じるバランスも自然と変わっていきます。
もちろん、「管理職を目指したいから、仕事を優先したい」という志向性の方もいらっしゃるでしょう。ですが、「絶対に仕事を優先せねばならない」ということではありません。もしそう思い込んでしまっているとしたら、他の選択肢にも気づいてほしいと思います。
③‐制度を使う
不妊治療に取り組む夫婦をサポートする制度は、整備されつつあります。国が行っているものとしては、「特定不妊治療助成制度」があります。令和3年1月1日以降に終了した治療から助成内容が拡充されることになりました。
体外受精及び顕微授精を特定不妊治療と定め、
・特定不妊治療以外の治療法によっては妊娠の見込みがないか、又は極めて少ないと医師に判断された法律上の婚姻をしている夫婦
・治療期間の初日における妻の年齢が43歳未満である夫婦
を対象に、これまでの夫婦合算の所得730万円未満が無制限になったり、1回の治療につき30万円まで助成、、助成回数も一子ごと6回まで(40歳以上43歳未満は3回)となります。
(詳細はこちらよりご確認ください)
細かい条件については、自治体によって異なります。お住まいの地域の窓口で相談してみてください。
不妊治療は保険適応外のものが多いですが、医療費控除は受けることができます。不妊治療を含む世帯の年間の医療費から、保険や助成金で補填された金額を引き、さらに10万円を差し引いたものに、所得税率を掛け合わせた額を還付金として受け取ることができます。ただし、医療控除額の上限は200万円までとなっています。
(詳細はこちらよりご確認ください)
また、独自で支援制度を作る企業も増えてきました。例えばトヨタ自動車では、特定不妊治療1回に対し、1夫婦上限5万円の助成を行っています。国の制度と異なり、年齢や所得制限、年度内の補助回数制限もなし、男性の不妊治療に対しても使えるなど、先進的な内容になっています。
また2017年から、不妊治療のための休暇制度も導入されました。サイバーエージェント、パナソニック、キリンビール、花王など、他にも多くの企業で導入されつつあります。
私たちエスキャリアにも、「こうのとり休暇」という、妊活や不妊治療のための通院に使える休暇を設けています。社会にもこの流れが広まっていくことを願うばかりです。
4.思い詰めすぎず、自分のペースで
いつ成功するかわからない取り組みであり、時間との戦いでもあるため、精神的にも、金銭的にも、スケジュール的にも負荷のかかる不妊治療。まずは、不妊治療にどう取り組むか、パートナーとしっかり話し合う必要があります。
そして、ご自身のキャリアをどうしていきたいか、今一度見つめ直してみてください。一時的にペースを落とすもアリ、仕事に影響のない範囲で治療を行うのもアリです。
5年後・10年後にありたい姿を思い浮かべ、優先順位をつけて、行きつくための道筋をつけられると良いでしょう。女性のためのキャリアカウンセリングサービス「マイ・カウンセラー」にも、不妊治療と仕事のバランスについてのご相談は寄せられています。自分ではなかなか答えが出せないという方は、キャリアカウンセラーにも頼ってみてくださいね。
仕事との両立が難しい側面もありながら、仕事をしている時間が息抜きになるケースもあります。あまり思い詰めすぎず、周囲の理解と協力を仰ぎながら、ご自身のペースで進めていってくださいね。